まず、私たちが知っておかなければならないことは、「犬は私たちが思う合図を行動の合図として必ずしも受け入れてくれる訳ではない。」ということです。


私の犬たちは、私が専門学校や、しつけ教室の授業や、レッスンが終わることを知っています。
それは、私の「何か質問はありませんか?」の言葉です。


私は、これを犬たちに教えた覚えはありません。
ただ、いつも終わる時に、聞いている人に尋ねているだけなのです。
それでも犬たちが自分で学習したのです。

つまり、犬たちは、おかれた環境の中で自分たちに必要な要素となるものを合図として学習しているということです。


合図のことを専門用語では、刺激といいます。

古典的条件づけの中では、2つの刺激が出てきます。
ひとつは、もうすでに行動と結びついている刺激を無条件刺激といいます。
そして、無条件刺激との結びつき学習をして、無条件刺激が起こす行動を本来まったく起こさないはずの刺激が行動を起こすようになるとその刺激のことを条件刺激と呼ぶのです。


このように、刺激にもいろいろなものが存在しますし、学習の中でこちらで作った合図というのも弁別刺激と呼ばれます。


用語は、難しいので覚えなくてもいいのですが、合図はいろいろな状態から変化するものであることを認識しておかなければなりません。


そして、合図がきちんと教えられているということを刺激制御といいます。
これは、4つのことができている必要がるということです。


1、合図が出たら、ただちにその行動が起きる
2、合図が存在しなければ、その行動は起きない
3、他の合図に対して、その行動は起きない
4、合図に対して、他の行動は起こらない

です。


合図に対しての意識というのは、大抵、1番だけの認識でいる人が多いのですが、実はあと3つの要素をクリアーしなければ、それは合図を教えたことにはならないのです。


特に、自発的行動を出させていると、犬は勝手に自分のペースで行動をするようになってしまいます。

これでは、犬に主導権を握られてしまうことになるので、できるだけ早い段階で合図をつけて、合図がない時に、その行動をしてもごほうびは得られないと教えておくと、コントロールしやすくなります。


3と4は、弁別訓練と呼ばれるもので、確実にその合図でしか行動が起きないようにするための学習経験を積ませる必要があります。

たとえば、飼い主以外の人が「おすわり」と言っても座らないように教えることは、座るための合図を限定することになります。

環境刺激で行動しないように飼い主から出される刺激を優先するように教える必要があるのです。


もちろん、その合図で他の行動をすること、つまり「おすわり」の言葉で立ったり、伏せたりしないように教える必要もあります。

合図を命令と定義づける人がいます。
つまり、絶対的に従わなければならないものと考えているのです。

私はそう思いません。

合図は、犬にとって行動を考えるヒントになるように教えることが大切なのだと思います。

行動を教える時に、自分から犬が合図と思いそうな刺激をなるだけ出さないようにして、合図を教える段階になってから犬が行動する前に必ず出して行動と結びつけやすくしてやることです。


時々、合図と行動を同時に出して教えようとする人がいます。
これは犬に学習しにくくしているだけです。

同時に2つのことを考えるのはとても難しいのです。


ですから、合図→行動→結果の方程式を崩してはいけません。
それから合図を教える時に、自分の体をしっかり管理して、ボディシグナルを出さないようにしなければなりません。

へたをすると言葉と動作の結びつきを合図と犬が考えるかも知れないのです。


合図を教えるならば、犬が意識しやすく、行動と結びつきやすい状況で教えなければならないと言うことです。