(Update:2008-7-21 21:42:17)
第6話)裕樹君とパステル
裕樹君は、生まれながらにハンディキャップを体に抱えていました。両親は、彼を大切に育ててきましたが、彼はいつも不満を抱えていました。
どんなに自分が努力しても、健常者にかなわないことです。
彼は、大好きな犬の仕事につきたいと思っていました。けれども、それが自分にはとても難しいことなのだと言うこともわかっていました。
でも、彼は不安がる両親を説得し、専門学校でドッグトレーニングを学ぶ決心をしました。
「どんなに苦労しても必ずできるようになってやる!」と彼は、自分に言い聞かせるように言葉にしました。
手術しても動きにくい足と、今にも止まりそうな心臓を抱えている自分のハンディキャンプに甘えることをやめようと学校生活では、クラスメイトと同じようにふるまいました。
トレーナーの先生から、「あなたが望むのだから、他の学生と同じようにするよ。」と言い渡されて、こぶしをにぎりしめて彼はうなずきました。
学校には、学内犬と呼ばれるトレーナー科の学生のために用意された犬がいました。
彼は、ウエルッシュコーギーのパステルの担当になりました。他にも2人の同級生がパステルの担当になりました。
パステルは、とても元気な女の子で、裕樹君を困らせます。怒って追いかけても、自分をからかうようにパステルは、あっちにこっちに逃げるのです。
トレーニングをしていても同じでした。裕樹君ががんばればがんばるほどに、パステルは集中もつかず、なかなかトレーニングもうまくできません。
「やっぱり自分のようなハンデのある者には、犬のトレーニングなんてできないのかも知れない。」とあきらめそうになった時、同級生の友人たちが「どんなに時間がかかったっていいじゃないか!おまえにならできるさ!」と励ましてくれました。
残念ながら1年の秋の競技会には、学校の代表に選ばれることはありませんでした。
裕樹君は、犬たちの世話をすることが犬との関係作りに重要だと思うようになり、夜遅くの最後の犬の散歩を手伝うようになっていました。
2年生になって、裕樹君も先輩になりました。1年生の後輩を見ていると、まるでついこの間の自分を見ているようでした。
春の競技会の代表ものがしてしまいました。
「くやしい。こんなにがんばっているのに、どうしてパステルに自分を理解してもらえないのかな?」裕樹君はくやしそうにパステルを見ました。パステルも「遊びにのってよ!」と強気です。
担任の山下先生は、にっこり笑って、「努力は必ず報われるんだよ!信じなきゃ!」と励ましてくれました。
とうとう念願のパステルとの競技会の出場が許されました。
それから、毎日毎日、特訓が始まりました。裕樹君もフラフラになっても練習と飼育のボランティアをやめませんでした。
もう、彼の体は悲鳴をあげていました。
競技会も後2日になり、練習にも力が入ります。
いつものように夕方の飼育を手伝ってから、最後の散歩まで時間がじあると、空いている教室に友人と向かいました。
ひとしきり話をしてから、友人はまたでかけてしまいました。
なんだか胸が痛いと思いだした時には、教室には誰もいませんでした。
競技会は、あさってなのに、どうしたんだ?と思っている間に床に倒れこんでしまい、意識が遠のいていきます。
友人が裕樹君を驚かせようと、パステルを連れて、彼のいる教室に向かいます。
パステルは、自分のパートナーのにおいを嗅ぎ取り、彼の元へ走りこみます。しかし、彼はなんの返事もくれず、床に倒れています。
友人が叫びます。「どうしたんだ!しっかりしろ!パステル!彼をおこしてやれ!」友人は、彼が疲れてしまって床でだだをこねていると勘違いしたのです。
しかし、裕樹君の様子がおかしいのをパステルのはげしい泣き声で気が付きました。
あわてて先生を呼びに走ります。
救急車が来て、彼に人工呼吸と心臓マッサージをしながら運び出すのをパステルを抱えた友人が呆然と見送ります。
パステルは、彼の意識をもどそうとするかのように狂ったように鳴き続けていました。
裕樹君は、競技会には出ることはできませんでした。
彼が最後まで希望を捨てず、パステルと練習してきたことを彼の周りの誰もが知っていました。
競技会当日、友人たちは彼の分までがんばろうと心に決めていました。
パステルは、もう二度と自分を迎えに来れない相棒を犬舎の中からじっと待ち続けていました。
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